川越で夏バテを制するグルメ探し【埼玉ブルース第14回】

埼玉ブルース

 

誰が言ったか知らないが、訪ねてみれば確かに感じる魅力のご当地をさすらう「埼玉ブルース」。

まだまだ続く熱帯夜、そろそろ飽きたそうめん地獄。最初こそ夏の風物詩の代名詞とも言えるあの冷たさに
舌鼓を打ったものですが、流石に毎日続けば嫌気が差すもの。かと言って、こう暑いのに、ほかに何を食べたらいいの?

そんな疑問に頭を捻らせていたところ、どうやらそうめんに代わる新たな夏の定番に加えるべき
うどんがあるとの噂。と言う訳で、今回は夏バテを制するグルメを探しに出掛けて来ました!

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とは言え、この「埼玉ブルース」。現在は目下埼玉県発祥の名品(たまに珍品)をめぐる旅だったはず。
一体そのうどんの何が埼玉県に因むと言うのか。

少々訝しがりながらお邪魔したのは、我らが埼玉県が誇る大都会こと川越市。いくつも駅ビルが立ち並ぶ
JR川越駅前からぶらぶら歩くこと約30分。
だんだんと景観は変わって、いつの間にやら時空を超えちゃった!?

ここ川越は蔵造りの町並みで知られる観光地で、その時代を偲ばせる佇まいから
小江戸と呼ばれているのだそうな。

へー、これはなんだか期待が膨らんじゃわざるを得ないかも!

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そこからさらに足を伸ばせば、かの有名な菓子屋横丁は平日にも関わらずすごい賑わい!
あいにくの悪天候ではあるものの、夏休み真っ盛りの時勢も相俟って、ご家族連れの楽しそうな
声がそこかしこから聞こえて来る。昔からの名物のほかにも
駄菓子なんかもあったりして、これはテンションが上がること請け合いです。

その喧騒を抜けて大通りに出て歩くこと、数百メートル。
そろそろ目的のお店にたどり着いてもいいはずなんだけど……

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!?

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あれ、確か探していたのはうどん屋さんで、求めて来たのはうどんのはずだったはずじゃ!?
最近ではまた食品サンプルが人気を盛り返して来ているとのことで、よく店先に飾ってあるのを見るけれど、
まさかのかばにお出迎えを受ける羽目になろうとは。

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なんだかつい最近これによく似た謎の生き物を見掛けたような気がするなあ……。
それにしても自販機グルメ特集に区切りが付いて久しくうどんを堪能出来るかと思いきや、
まさかの三週連続で動物のジオラマが続くって、どれだけかばとその周辺に縁があるんだと(ry

ほかにはない一風変わったうどんを頂けると聞いてここまでやって来ましたが、
まさかかばの蒲焼き入りとかじゃない…よな……? あまりに斜め上の可能性に、
ここまで軽快な道行きをたどって来た足取りが思わず竦む。

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だが、いつまでもここでこうしていても仕方がない。恐る恐る暖簾を潜ると、

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その店内はいかにも老舗の通好み然とした佇まいが広がります。さっきのかばとは一体何だったのか。

「あのう、ここでしか食べられないという変り種うどんを捜し求めて来たのですが……」

「ああ、芋うどんのことだよね。ちょっと待っててくださいね」

気のいいご店主にうどんを茹でて頂く間に、改めてお店のなかを見渡してみる。
この日は大雨、しかも平日の夕方近くであるにも関わらず外国人団体さんを含め、
多くの観光客の方々で店内はひしめき合っていた。

お伺いすれば、特に快晴の休日ともなれば客足は引っ切りなしで途絶えることがないのだそうな。
なるほど、それも納得のお品書きの多さです。

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しかし、この品揃えの多さにも関わらずに、このお店にいらっしゃるお客さんの実に半数はある
メニューを頼むとのこと。それこそが今回はるばる求めてやって来た変り種うどんらしいのだが……
とは言え、さっき聞こえた芋うどんという字面からは大方さつま芋の天ぷらでも乗っている
どんぶりの絵が容易に想像出来て仕方がないではないか。

それの何処が一体夏の新定番メニューになるのだろうかと訝しんでいたところへ、

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「お待たせしました、芋ざるうどんです」

ほどなくして、先程の気のいいご店主が運んで来てくださったのは……あれ?
これって、どう見てもそばじゃ!?

「あ、あのう。確かお願いしたのはうどんだったと思うんですが、、、」

「ああ、それよく言われるんだよね。でも、これはれっきとしたうどんなんだよ!」

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そう言われてよくよく目を凝らしてみると……なんと振る舞ってくださったのはかばの蒲焼きなら
ぬかば色のうどん!?

その麺の細さも然ることながら、ぱっと見た色はおそばそのもの。しかも、肝心の芋の要素は皆無。
一体このうどんの何処に、夏の新定番に据えるべき秘密が隠されているというのか?

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「ここ川越はさつま芋の名産地だから、それをもっといろんな人に
知ってもらうためにこのうどんで貢献したいと思って」とはご店主談。

とは言え、一応麺と汁の両方を隈なく探ってみたものの、一向に芋らしいものは見付からない。

これに合わせてかばを置いたのか、はたまたかばが先なのか。
そんなどうでもいいことを考えながら、そばならぬかば色のうどんを意を決して口に運んでみると……
あれ、なんだか思ったよりも粘っこくも甘くもない???

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それよりも、しっかりとさつま芋自体の味わいがするのと……何よりも、なんだこの食感は!?
数々のグルメを食べ歩き、人一倍いやしい自負のある筆者もこの歯応えははじめて。折角なので、
そもそもどうやってこのメニューを編み出されたのかを伺ったところ、

「この地元でずっと続けている店だから、なにかその特色を表わすようなものを出したくて。
でも、ただのさつま芋を天ぷらにして添えるだけじゃ芸がないでしょ」

そう、ここ岡野屋食堂さんの一風代わったメニューとは、さつま芋ならぬ
紫芋をふんだんに練り込んだ芋うどん。どうりで、普通のうどんとは一味違う発色と旨味がある訳です。

その閃きから苦心することおよそ10年。あれこれ試行錯誤を繰り返した賜物は、今では明治期創業の
老舗の誇る数多いメニューのなかでも最主力になっているというまさにここでしか味わえない夢のコラボです。

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それだけに、平素からなかなか取材が絶えないのだとか。大変に場慣れしていらっしゃる
店主自ら「そう言えば、この間はあの人達が来たよ」と、毎週水曜七時~の某番組が
来た際の様子も語ってくださった。

早速そのご厚意で、その時に振る舞われたと仰る肉汁うどんの頂くことに。
この連載がはじまった第1回目、思えば自販機うどんからスタートした企画が第14回目にして、
ようやく手打ちを食べることが叶おうとは。……ここまで長い道のりだった
(いや、あれはあれでおいしかったですけども)。

しかし、このうどんにあるまじきまでの肉たっぷり感。さらに、既に一人前のうどんを
平らげてしまっている身としては、ご店主のお気遣いはありがたいものの、流石にこれは
食べきれないのではないかと思いきや――

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再び箸を握りはじめることわずか数分、なんと余裕で完☆食しちゃいました。。。

聞けば、こちらの肉汁うどんの方は1.5玉分あると言うから、なんと合わせて三人前近くを食べて
しまったということに(!)なりますが……まさかのこのおいしさとあっては、国民的アイドルと
我らが埼玉県の生んだお笑い界のヒョードルが骨抜きにされてしまう訳です。

ほかでは味わえない口当たりの芋うどんと、優しい味付けの肉汁うどん。
これはもう夏の新定番どころか埼玉グルメのド定番ってことで大アリなんじゃないでしょうか!?

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埼玉県どころか日本でも屈指の人気メニューを一手に引き受けるご店主。
その創業から数えて実に四代目ということで、まさにうどん界のサラブレッドながら
巧みな話術は、なんならその道に進んでもよかったんじゃないかと首を捻らされるレベル。

しかし、しつこく繰り返すようだが、ここは日本でも唯一の看板メニューを誇る名店。
ご店主に置かれては気の変わらないよう、毎日このたくましい手で食べ応えのある
うどんを作って行って頂きたい。

【今回取材させて頂いた岡野屋食堂様】

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