いつも「埼玉ブルース」を読んでくださっている奇特なみなさん、こんにちは。
そして、埼玉県在住のすべての金子さん、こんにちは!
このコーナーも早いもので第四回。はじめての忌み数を迎えた節目に、さらに奥の深い埼玉の魅力をお伝えしたいと思います。
名付けて「埼玉県発祥各所を巡る旅」。という訳で、今回はこちらの街にお邪魔して来ました。
ここ金子は、金子姓発祥の地として知られているんだとか。
へー! 全国津々浦々の金子さんは、この地名をキッカケに広がって行ったなんて、なんだか感慨深いかも。
その金子氏を名乗りはじめたTHE元祖金子さんのお墓がこの近くにあると言うので、早速伺ってみることに。
いつものごとく公共交通機関で参ったのですが、県庁所在地からは約二時間という遠征っぷり。
「改めて、埼玉県って広いんだなあ……」と感慨に耽りつつ、そのまま徒歩で目的地を目指します。
よく「ここが日本だなんて思えない!」なんて誉めてるのか貶してるのか分からないような言い回しがありますが、ここが現代だなんて到底思えません。
あ、もちろん誉めてるんですよ。
緩い坂に息を弾ませて上って行くと、件のお墓があると言う瑞泉院さんの入り口が見えて来ます。
この辺りになって来るとまったく人気もなく、本当に時が止まったのではないかと錯覚するほどの静けさが広がるばかり。
のちに、これは麓の石屋さんで飼育されているニワトリの仕業と分かるのですが、さっきから何かの鳴き声がしきりに聞こえるほかには見渡す限り人の気配はない。
「これは本当に時が止まっているのかも知れない……」、打たれ弱い筆者の背中に思わず戦慄が走る。
その戦慄を振り切るように歩みを進めると、ご親切にも年季の入った看板がお目見え。
元祖金子さんのお墓はあっちかー……
って、千体地蔵塔?地蔵なのに塔?!
どういうシチュエーションなの、それ!?
塔だ、これは紛れもなく塔だ……。
正面から見てみると、その迫力に思わず圧倒されること間違いなし。
何処を見ても目が合ってしまう。こんなに一度に大勢に見下される機会なんて、誰しもそうないに違いない。
いやに被虐心を煽られ、うっかりなにかに目覚め掛けたところで、危うく御前を失礼します。
「あれ、そういえばお地蔵さんの後ろ姿ってどうなってるんだっけ?」
そんな疑問に駆られて、一応バック・ショットも撮らせて頂いた。はじめて見たけど、なんだかちょっと可愛いかも!
この世に萌えジャンルは数多あれど、まさか自分がお地蔵さんに萌える日が来ようとは。
罰当たりにもほどがある煩悩を悟られる前に、危うく本来の目的地である金子さんのお墓へ急ぐ。
どうやら現役で稼働中らしいお線香の自販機。
心機一転、自販機からは卒業したはずなのだが……このコーナー、何処まで自販機に縁があるのか。
そこからさらなる坂を登ると、樹齢数百年はあろうかという木々に囲まれて、それらしき影が見えて来た。
が、この辺りで途端に快晴だったはずの空に暗雲が立ち込め、さらには雷まで鳴り出す始末。どうやらさっきの煩悩は、しっかりお地蔵さんに伝わってしまっていたらしい。
でも、この天罰はちょっと厳し過ぎだし、何よりも早過ぎやしませんか。。。
そんなこんなの珍道中を乗り越えて、ようやくたどり着いた元祖金子さん一族のお墓がこちら。
あれ……
でも、その説明には宝篋印塔って書いてある……?
それって何ぞやと思いながら続けて張り紙を読むと、墓塔・供養塔などに使われる仏塔の一種であるとのこと。あ、やっぱりお墓ってことなのか。
平安の世に生まれたTHE元祖金子さんこと金子十郎家忠さんは、あの源義経の指揮の下で平氏討伐に尽力し、その活躍振りはご存知『平家物語』にも登場するのだそうな。
日本人なら誰もが知っているあの軍記物語の英雄をこんなに近くで悼めるなんて、なんだか本当に時空を超えて来たみたいな気がして来ました。
きちんと手を合わせたところで、名残惜しくも金子さん達に別れを告げて、ふと気付いたことがひとつ。
「あれ……瑞泉院に来たはずなのに、お寺らしきものを見ていないような……」
どうやらここが跡地であるらしく、現在はその面影を残すのみ。
しかし、そこに立つと入間市全域を眺めることが出来る上に、もっと上の方に行けば晴れた日には富士山も拝めるのだとか。
きょ、今日も筆者に煩悩さえなければ……。
元祖金子さん一族をはじめとして、現在二千余りのお墓を有する霊園内のあちこちには花がいくつも咲いており、訪問者の心を癒してくれる。
この瑞泉院の第二十三代ご住職の奥様で、西東京コスモ霊園の管理者のお一人でもある近藤さんにお話を伺うと、この景観を目当てにお弁当持参で墓参にお越しの方も少なくないという意外な答えが。
お、お墓参りとは言え霊園でピクニックってことですか!?
確かに緑は多いですけど……
そうは言っても、周辺は見渡す限りすべて墓地。
お一人でオフィスにいらっしゃることも少なくないそうなのに、夜は怖くないのかと失礼ながら訊いてみると、「昔はこの辺り一体ぜんぶ松林だったのよ。むしろ墓地になって見通しがよくなって逆に安心になったくらい」とおっしゃっていた。
だが、やはり墓地は墓地。あまり心臓の強くない方には、きちんと昼間のご訪問をお勧めする。
【今回取材させて頂いた西東京コスモパーク霊園内瑞泉院様】
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