日本考古学上の重要拠点 吉見百穴【埼玉ブルース第15回】

埼玉ブルース

誰が言ったか知らないが、訪ねてみれば確かに感じる魅力のご当地をさすらう「埼玉ブルース」。

人間誰しも恥を抱えて生きるもの。特に、インターネットが隆盛を極める昨今では、とかく恥は減ることはなく
ますます増えて行く一方。

昔書いた中二病臭いブログを今更になって見付けて深夜に悶える羽目になったり、

何気ない気持ちで投稿した自画撮り写真が大型掲示板で晒されてしまったり、

はたまた某SNSにて軽い気持ちでシェアした動画からうっかり性癖が露呈する……なんて話もしばしば。

そんな数々の恥をお持ちの皆さんの「もし穴があったら入りたい」の気持ちにお応えして、
今回は”最適な穴”を見付けて来ました!

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と言う訳でお邪魔したのは、その周辺を山深い緑に囲まれた比企郡は吉見町にある吉見百穴。
以前伺ったジオパーク秩父が日本地質学発祥の地なら、ここは日本考古学上の最重要拠点と
呼んでも過言ではありません。

そんな恐れ多くも由緒正しい場所の割に、何なんだこのとてつもないインパクトは。
突然この写真を突き付けられたら思わず異世界トリップの存在を信じてしまう勢いで
書いて字のごとくツッコミどころ満載です。

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こちらを向いてもあちらを向いても見渡す限り穴だらけ。どうやらこの場所、”百穴”と言いながら、
実際には219個の小穴によって構成されている模様。これほどたくさんの穴を一度に見る機会なんて、
果たして人間あるものなんだろうか?

「さて、どの穴に入ろうかな~♪」と鼻歌交じりに眺めてみるも――実は、この吉見百穴は国内でも名実ともに
最大級と謳われる横穴墓群だとのこと。ってことは、このすべての穴という穴には
漏れなく誰かの遺体が収められていたのか。。。

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軽快な鼻歌は何処へやら、予想外に季節柄という空気を呼んだオカルトな展開に思わず一歩を踏み出す足が震える。

お墓のくせにと言ったら失礼ですが、やたらと緑が青々と茂っていて、その辺りにもなんだかカオスを感じます。
草葉だけにその陰から見守られちゃったりされていそうで、少々恐ろしいような気はするものの、
ほかの人のお墓を潜る流儀なんて存じ上げないので、ひたすら礼儀正しく見せるよりほかに方法がない。

それにしても、ほかに人影が見えないので、そのまま闖入を躊躇っていたところへ、

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お誂え向きにご登場くださったカップル達の三歩後に続いて、恐る恐る足を踏み入れてみる。

その入り口にはご丁寧にベンチが置かれているものの、こんなところで休憩を試みる物好きなんて
いるのであろうかと思いながら、さらに歩みを進めてみると……

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あれ、涼しい…だと…?

お天気お姉さんからは降水確率60%と予報されながら結局は晴天の続いたこの日の気温は、
ご多分に漏れぬ30℃超え。にも関わらずに、ここに踏み入れば噴き出し続けて止まることのなかった
汗がぴたりと引いてしまうほど。

実際に温度計を持参していなかったので具体的な数値はともかく、例えるなら真夏に高山の山頂に居る
ような清涼感。今では立ち入りを禁じられている場所もあって、そう探索に時間は掛からないものの、
やはりじっくり楽しみたいなら女性は上着持参がお勧めかも。

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そうは言いつつも、毎日の炎暑に耐え続けている身としては、この肌寒ささえ嬉しいもの。

この大穴は、そもそも先の戦争の際に軍需工場を建設するために掘られたのだそう。結局本格的な
生産がはじまる前に終戦を迎えることとなったとは言え、今に昭和の息吹きを伝える大変貴重な遺産です。

幾又にも別れた旧軍需工場跡内部。

その当時の面影を偲んでいるうちに、一刻も早く二人になりたいカップル達には、早くも撒かれてしまいました。
こんな時、いつもなら臆病風に吹かれて一目散に退散しているところですが、この冷風という天然クーラーを前に
しては微塵も足を動かす気になれない。

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しかし、そのまま暗闇に佇む訳にも行かずに奥へと踏み入ってみたつもりが……あっと言う間に見えて来た出口。
そこから差し込む陽光こそ、まさに解脱の象徴です。

ああ! 思春期に悪ぶろうと思ってなめ猫を真似てみたら「時代が違う」と笑われたことも、

ちょっと斜に構えたキャラを気取っておきながら林間学校の登山で虫に追われて大騒ぎしたことも、

友人の誕生日に大学構内に酒類を持ち込んで危うく停学処分沙汰になったあの日の出来事も、

ここを抜ければすべての恥が帳消しになるんですね!

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そうして入って来たのとは違う出口からゴール。その瞬間に、またぶり返す灼熱地獄。
しかし、すべての恥が浚われた今となっては、それすらもはや愛おしい……!

と言うか、今回は穴の写真ばかりで、穴フェチとその隠れ予備軍以外の皆さんに
置かれましては、何と言うか実にすみません。

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ひとしきり余韻に耽った後で、改めて墳墓群を見つめると、
何やら上がれそうな階段があったので、

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とりあえず、登ってみる。これまでの例に倣ったように急な段差は、
決して難易度易しめとは言えません。

こうして目の当たりにすると、ひとつひとつの小穴にもなんだか言い知れぬ迫力があったりする。
既に明治期の発掘調査ですべて掘り起こされて、今は空っぽの状態だと言われても、
何処か圧倒されてしまうような霊験あらたかな空気すらも感じます。

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そんな霊験あらたかな空気を放つ小穴群の頂点に立って眺めた景色がこちら。
誰もが見惚れて止まない絶景を縁取るのは蝉の鳴き声のみ。

多くの見どころを有するこの吉身町に置いても随一のピクニック・スポットと言えそうですが、唯一惜しむらくは、
ここはお墓の上。それでも穴に入って恥を忘れてデトックスしちゃった後は、そこを跨いでいっそのこと
恥を制してみるのも悪くない禊かも知れない。

【今回取材させて頂いた吉見百穴】

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